複雑内部流れの非定常三次元解析 
(回転翼 列グループ)


空力騒音解析 
(空力騒音グループ)


遠心型ターボ機械の内部流動解析 
(遠心グループ)


革新的ターボ機械の空力設計 
(空力設計グループ)


風レンズ風車の開発 
(風レンズグループ)


複雑渦流れ場の実験解析 
(計測グループ)



複雑内部流れ場の非定常三次元渦流れ構造の解明とその制御 (軸流圧縮機における旋回失速現象の解明

T.研究目的

 本研究グループは 『軸流圧縮機における旋回失速現象の解明』 を目的に研究を行っています.

 具体的には,実験流体力学(EFD : Experimental Fluid Dynamics)とビジュアル・データマイニングによる 計算流体力学(CFD : Computational Fluid Dynamics) とを融合した,EFD/CFDハイブリッド流動解析技術(EFD解析とCFD解析を併せて実施し,双方から解析を行う)により解析を行っています.

 ターボ機械内における非定常な三次元渦流れ場は極めて複雑なため,EFD解析のみではこれを完全に計測することは困難です.一方で,CFD解析も万能ではなく,EFD解析結果にてらしあわせた検証を行わなければ,完全な信頼性はありません.
 そのため現状では,EFDを補完し,現象をよく理解することを目的としてCFDを活用する,EFD/CFDハイブリッド流動解析がターボ機械の解析にとって最も有効な手段といえます.

EFD/CFDハイブリッド流動解析

              今年度からは、さらに積極的なCFDとEFDの融合に向けた研究をおこなっていこうと考えています.
U.軸流圧縮機とは

軸流圧縮機のモデル

軸流圧縮機のモデル (P&W社 航空用ターボエンジン)

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 軸流圧縮機(Axial-Compressor) とは,回転する翼の作用により,回転軸に平行に流れてくる流体の圧力を上げるために用いられる機械です.
 このような軸流圧縮機は,大流量の気体を圧送できる,高効率が得られる等の利点から,身近なところでは航空用ジェットエンジンや,陸用・舶用ガスタービンや,高炉・空気液化装置などの産業用としても広く用いられています.


 軸流圧縮機は航空機の翼とほぼ同じ形状を持つ翼を周方向に等間隔に並べた翼列(Cascade)から構成されています.実際に使用されている機械では,翼列のなかでも回転させて用いる動翼列(Rotor),回転させずに用いる静翼列(Stator)の二種類を使い,これらを交互に何段(静翼+動翼を1段として数えます)も並べる事によって流体を高圧に圧縮しています.
軸流圧縮機の用途
軸流圧縮機の用途
 (航空機 :航空自衛隊ホームページより引用)
(船舶  :海上自衛隊ホームページより引用)
(発電施設:東京電力ホームページより引用)


V.実験装置

試験部詳細図
試験部詳細図


 右の写真は,実験に用いている軸流圧縮機の試験部です.

 試験部は外ケーシングと内ケーシングからなる二重円筒構造をしており,動翼近傍の内ケーシングを変更することによって翼先端隙間の変更,さらに静翼リングとスペーサーを入れ替えることによって前置静翼−動翼間距離(Front Gap)および動翼−後置静翼間距離(Rear Gap)の変更が可能です.

 この軸流圧縮機の性能は,静・動翼列と流体とが及ぼしあう影響に大きく左右され,その影響の1つとして旋回失速(Rotating-Stall)と呼ばれる現象があります.次項で,この現象について説明します.
 左図は,実験に用いる多段軸流圧縮機の試験部詳細図です.試験部は入口案内羽根(I.G.V.)−前置静翼(静翼1)−動翼−後置静翼(静翼2)−出口案内羽根(O.G.V.) からなる準二段軸流圧縮機となっています.
ただし,入口案内羽根は多段軸流圧縮機における前段動翼の流れをシミュレートするように設計されているため,試験部は多段軸流圧縮機の中間段を模擬できています.また,静翼や動翼の位置,翼先端隙間を調節できる構造となっています.
実験装置(試験部)
実験装置(試験部)


W.旋回失速現象とは

 ガスタービンやジェット機に用いられる多段軸流圧縮機において,安全な運転範囲を制限するものの一つに旋回失速(Rotating Stall)という非定常現象があります.これは,局所的な失速域(失速セル)が動翼の回転速度の30〜70% で翼間を伝播する現象であり,圧縮仕事や効率の急激な低下を引き起こすばかりでなく,翼に繰返し荷重がかかり翼の疲労破壊を引き起こす恐れもあります.ここでは,その旋回失速現象について説明します.


fig.a-1


fig.a-2


fig.a-3


fig.b

 さきほど述べた様に圧縮機の翼と航空機の翼の形状は非常によく似ています.これは両者が同じ原理で使用されているためです.したがって圧縮機の翼にも航空機の翼と同様な現象が生じます.


 その現象の1つとして失速(Stall)が挙げられます.図a-1の様に動翼の前後の先端を結んだ直線(翼弦:Chord)と,流れの方向のなす角を迎え角(Attack-Angle)と呼ぶのですが,この迎え角が小さい時は図a-2の様に流れは翼によって流れるのですが,迎え角が大きくなると,流れは図a-3の様に翼から剥がれてしまいます(剥離).この現象を失速と呼んでいます.


 圧縮機の場合では流量を減少させていく事で迎え角が増大する現象が起き,同様の失速が生じます.この失速領域は図bの様に翼列に局所的に現われます.この様な局所的な失速領域を失速セル(Stall-Cell)と呼びます.失速セルは特定の場所にとどまらずに翼列の回転と逆方向に移動していき,結果として動翼回転数の30〜70%の速度で回転します.この現象を旋回失速(Rotating-Stall)と呼びます.


 この旋回失速現象によって,

   (1) 圧縮仕事や効率の急激な低下
   (2) 翼に繰返し荷重がかかることによる,翼の疲労破壊
   (3) 顕著な離散周波数騒音の発生

を引き起こす恐れがあります.

そのため,旋回失速の初生および遷移過程のメカニズムを解明することは,旋回失速の抑制による運転範囲の拡大やその事前検知などに役立つという点でたいへん大きな意味をもちます.

X.EFD/CFDハイブリッド流動解析による旋回失速現象の解明

EFD解析

 失速セルの挙動を実験的に捉えるには、動翼列(回転要素)内の流動を、要素とともに回転する座標系から計測すると共に、動翼に対する失速セルの位相についても考慮する必要があります.
 しかしこれを満足する計測は容易ではなく、過去行われた他の実験的研究においても、旋回失速の初生及び成長のような過渡的変化における内部流動を詳細に述べたものはなく、その詳細については不明でした.

 これに対し私たちの研究グループでは、周期的多点抽出法により動翼に同期したデータを収集し、そこから得られたデータに対し,失速セルに同期したデータをアンサンブル平均する「二重位相固定法(Double Phase Locked Measurement)」を開発しました.
 これにより,旋回失速時の渦流れ場における内部流動測定を行うことを可能としました.

 また近年では,ケーシング壁面から計測した壁面圧力について時空間内挿を行うことで、ケーシング壁面の矩形領域における同一時間のデータを取り出す「同時面計測法(Syncronous Field Mesurement)」を新たに開発しました.
 この計測法により、旋回失速の初生及び成長過程における過渡的状態の流れ場を可視化して捉えることに成功しました(右アニメーション参照).

 さらに、旋回失速の初生に後置静翼の流れ場構造が大きく関係していることが、一昨年のCFDによる研究で明らかとなったため、静翼まわりの流れ場構造を実験的に把握するべく、昨年度には熱線による周期的多点抽出法を応用した新しい計測法を開発しました.その方法は、まず熱線の半径位置と熱線-静翼の相対位置を様々に変化させて、周期的多点抽出法により大量のデータを取得します.そして、データの後処理の段階で、動静翼の相対位置関係が等しいものをピックアップし全データを再構成することで、動翼の回転位相ごとに静翼の流れ場の情報を集めることができます.最後にこの情報をコンターマップにして可視化します.また、すべての回転位相に対してコンターマップを作成し、つなぎ合わせることでムービーにすることもできます.
同時面計測法による壁面静圧分布測定結果
同時面計測法による壁面静圧分布測定結果


CFD解析

 EFD計測(実験)から得られる情報量は物理的に限られており、翼間における複雑な非定常三次元渦流れ構造の詳細まで解明することは、ほぼ不可能です.
 そのため本研究では、EFD解析で使用する供試軸流圧縮機動翼列を対象として、翼1ピッチにつき約150万点の計算格子に対して,スーパーコンピュータを用いた大規模な非定常RANS(レイノルズ平均ナビエストークス方程式)計算によるCFD解析(数値計算)を行いました

この結果,EFD計測結果との相互検証によって、EFD/CFDのそれぞれの解析結果の妥当性を確認すると共に、EFD計測のみでは解析不可能な翼間流路内の渦構造を明らかとしました.(下アニメーション参照)
同時面計測法による壁面静圧分布測定結果

旋回失速セルの渦構造(渦コアを表示)
同時面計測法による壁面静圧分布測定結果

旋回失速時の渦構造および翼面上限界流線

旋回失速セルのフローモデル

 以上のEFD/CFDハイブリッド流動解析結果から,旋回失速セルは翼負圧面から上流ケーシング面上に及ぶ竜巻状の剥離渦構造を有している(CFD結果:左アニメーション参照)ことが分かり,旋回失速セルについて右図に示すようなフローモデルが示されました.
 すなわち,この剥離渦が翼流路で引き伸ばされ,これが隣接翼に干渉することによって隣接翼に前縁剥離を引き起こし,新たな剥離渦の発生を生じます(CFD結果:右アニメーション参照).
 これにより,剥離渦は連続的に翼間を次々と伝播する失速セルとして翼ピッチ間を旋回することが明らかとなりました.

 旋回失速に関して,以上のようなEFD/CFD双方からの詳細な解析結果は世界的にも例がなく、本研究は国際的な先駆性を有していると言えます.

旋回失速セルのフローモデル
旋回失速セルのフローモデル


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