タービンスクロールの内部流動解析

 本研究では実際に企業で用いられている遠心型タービン(ラジアルタービンスクロール)について,企業との共同研究により解析を行いました.

 左図に解析対象であるラジアルタービンスクロールを示します.

 スクロールを出た空気は遠心タービンへ流入し,仕事をすることでその旋回を失い,軸方向へ流出します.
 この影響は上流のスクロール内の流れ場にも及ぶと考えられますが,タービン部の流れを含めて計算するためには,タービン部にも十分な格子を切らなければならず,解析対象でない非本質的な部分に多大な計算資源を費やすことになります.

 そこで本計算では,翼の作用をモデル化し,その効果を計算式中に組み込むことによって,スクロール内流れ場の精度向上を図りました.


※ 翼力の効果
翼力の効果は以下の式によりモデル化し,計算式中に組み込みます.

(1)Without blade force
(2)With blade force

 上図はタービン領域における流線を示しており,
(1)図は左の翼力モデルを加えない結果,(2)図は翼力モデルを加えた場合の結果を示しています.
 この結果から,計算式中に翼力の効果をモデル化して付加することにより,タービン部分で旋回を失う流れが正しくシミュレート出来ていることがわかります.
 Angular momentum history

 左図は,スクロール出口から単位時間に流出する角運動量をタイムステップごとにプロットしたものです.
 翼力無しの場合,角運動量が大きく振動して収束していないのに対し,翼力有りの場合はほとんど振動せずに収束していることがわかります.

 これは次のように説明できます.

 翼力を加えない場合,半径の減少に伴い旋回速度が急激に増大し,非現実的な流れ場となってしまいます.
 その結果,壁面でのせん断力が増大し大規模な渦が形成されることにより,計算精度が低下するばかりか計算の不安定性を増す結果となります.
 したがって,翼力を加えることは,精度の向上のみならず,計算を安定化する効果があると考えられます.



 右図はタービンスクロール流路内の様子を表した図です.

 図Aより,舌部および巻き始めに大規模な渦構造が形成されていることがわかります.

エネルギ高損失領域には大規模な渦構造が存在しており,損失の生成は渦構造が支配的であると考えられます.

 次に図Bより,巻き始めと舌部において,高損失領域が形成されているのがわかります.
45度断面における側面ハブ側の低エネルギー流体が,角度が増すにつれて主流に流れ出し,225度の断面でスクロール出口に到達しています.
流線から明らかなように,この低エネルギー流体は,20 度付近にある渦によって生じたものであり,スクロール出口に至るまでに,周りの流体に様々な影響(ブロッケージ効果や摩擦損失)を及ぼすと考えられます.
このように,巻き始め部分で発生した渦は下流の流れ場にまで影響を及ぼしていることがわかります.

図A 全圧損失と流線
図B 流路内の渦構造