Fluids Engineering Science Laboratry

流体科学研究室 教授より

古川雅人 教授

人間は空気と水がなければ生存できない上に,現代の文明社会はエネルギー(電気,都市ガスなど)なしでは成り立ちません.この文明社会を見渡しますと,いかに多くのターボ機械が活躍しているかに気付かされます.例えば,上・下水道および灌漑システムでは各種ポンプが,都市ガス供給システムではLNGポンプが,発電システムでは蒸気タービン,ガスタービン,水車,風車などが稼動しており,社会インフラにおけるライフラインを日夜支えています.また,家電製品においては,冷蔵庫や空調機などの冷凍サイクル用の圧縮機や膨張機,空調機の送風用ファンや熱交換機用冷却ファン,掃除機のターボブロワ,コンピュータなど情報機器の冷却ファンなどとしてターボ機械が組み込まれています.さらに,輸送分野においては,車両エンジンのターボチャージャーやラジエータ用冷却ファン,カーエアコン(HVAC)用のブロワ,航空機エンジン用ガスタービン,ロケットの主エンジン用液体水素ポンプおよび液体酸素ポンプなどが挙げられます.以上のとおり,現代の文明社会を支えているターボ機械は枚挙にいとまがありません.特に,ライフラインを支えるターボ機械は「文明社会の心臓」であると言えます.

研究室について

図1 航空機エンジン用ガスタービン

ターボ機械の中でもガスタービンは,その設計から稼動に至るまで多岐にわたる工学的知識のすり合わせが不可欠です.例えば,図1に示す航空機エンジン用ガスタービンでは,熱工学(熱サイクル),流体工学(圧縮機・タービン翼列),燃焼学(燃焼器),伝熱学(タービン翼列),トライボロジー(軸受およびシール),材料力学(翼および構造体),振動学(回転軸および動翼),機械工作法(翼列),計測自動制御学(運転)などの機械工学に関する知識を総動員しなければ,設計から運転まで行うことができません.この観点から,航空機エンジン用ガスタービンは「機械工学の結晶」と言われ,「知識集約型産業」の典型であるとともに,関連産業の裾野も広く,新興国の追随を許さない分野であります.以上のとおり,ガスタービン分野は我が国の卓越した技術の優位性を保つことにも貢献できることが期待されています. 以上のことを踏まえて,「流体科学研究室」では,ガスタービンなどのターボ機械における「気体流れ」に関する研究を遂行しています.その速度範囲は低速流れから超音速流れまでを対象としています. 研究テーマを大別すると以下の3つに分類できます.
異常流動現象(非定常三次元渦流れ現象)の解明
先端的流体計測法の開発
革新的空力設計法の創出
各研究テーマの詳細については,「RESEARCH」を参照いただけば幸いです.

研究および産学官連携について

EFD
・熱線および高応答圧力センサーによる非定常計測
感圧塗料および感温塗料による光学的計測
CFD
・スーパーコンピュータによる超大規模数値計算
・特異点理論に基づく知的可視化

産業界との連携について
ガスタービンなどのようなターボ機械に関連した研究を実施していることから,流体科学研究室は産業界との繋がりが深く,多数の企業と共同研究を行っています.
三菱重工業(株),三菱日立パワーシステムズ(株),川崎重工業(株),三菱電機(株),(株)日立製作所,ダイキン工業(株),パナソニック(株),ミネベアミツミ(株),マレリ(株)(旧カルソニックカンセイ(株)),コンソーシャムプロジェクト(8社)など

終わりに

以上のとおり、私にとって流体機械は研究テーマとして身近にあります。流体機械に関する具体的な研究例を通して考えると、流体機械と流体工学は切っても切れない関係にあることが分かると思います。上述のように、流体機械の問題解決には、流体工学の古いテーマから新しいテーマまで、さらに学際的な新しいテーマまでを総動員して、取りかかることが不可欠です。言い替えると、流体機械は成熟した分野であるだけに、研究対象となる問題が厄介であるのかも知れません。また、流体機械の内部流動は極めて複雑であるため、実験解析(EFD)のみで問題を解決することには限界があります。かといって、CFDで全て片付くほどCFD結果に信頼性はありません。解析対象と同じ条件あるいは類似の問題に対する実験結果から計算結果の検証を行わなければ、CFDの結果を鵜呑みにできないのが現状です。実験そのものをCFDで置き換えるのではなく、EFDを補完し、流れ現象をより深く解明することを目的としてCFDを活用することが賢明です。すなわち、流体機械の問題解決には、EFD/CFDハイブリッド流動解析が最も有効であるのが現状です。

※ 古川 雅人 教授 : 日本機械学会流体工学部門/メール座談会 掲載文より引用