先進ガスタービン用遠心圧縮機における非定常三次元流動現象
サブテーマ
■航空機エンジン用ガスタービン
■遷音速翼列内の衝撃波を伴う三次元乱流現象
■多段軸流圧縮機における旋回失速の初生メカニズム
【2017年日本ガスタービン学会賞(論文)】
■超大規模数値解析と知的可視化
【2014年度・2018年度HPCI利用研究課題優秀成果賞】
■EFD(実験流体力学)とCFD(計算流体力学)の併用解析による流動診断
【2002年度日本機械学会賞(論文)】
研究概要
本研究グループは,軸流圧縮機における複雑流動現象の解明を目的に研究を行っています.具体的には,数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)と知的可視化処理により,実験での計測が困難な圧縮機内部の三次元流動現象の解析を行っています.
軸流圧縮機とは
軸流圧縮機(Axial-Compressor)とは,回転する翼の作用により気体を連続的に圧縮するターボ機械です.このような軸流圧縮機は,大流量の気体を圧送できる,高効率が得られる等の利点から,身近なところでは航空用ジェットエンジンや,陸用・舶用ガスタービン,高炉・空気液化装置などの産業用としても広く用いられています.軸流圧縮機は航空機の翼とほぼ同じ形状を持つ翼を周方向に等間隔に並べた翼列(Cascade)で構成されており,回転することで流体に運動エネルギーを与える動翼(Rotor)と,その運動エネルギーを静圧へ変換する静翼(Stator)を交互に何段(静翼+動翼を1段として数えます)も並べる事によって流体を高圧に圧縮しています.
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| 航空用ガスタービンエンジン(P&W社) | 軸流圧縮機の用途 (航空機:航空自衛隊ホームページより引用,船舶:海上自衛隊ホームページより引用,発電施設:東京電力ホームページより引用) |
(航空機:航空自衛隊ホームページより引用,船舶:海上自衛隊ホームページより引用,発電施設:東京電力ホームページより引用)
研究背景
軸流圧縮機をはじめとしたターボ機械内における非定常な三次元渦流れ場は極めて複雑であり,実験流体力学(EFD:Experimental Fluid Dynamics)のみで,これを完全に把握することは困難であるため,CFD解析による流れ場の分析が広く用いられています.
近年では,ガスタービンエンジンの高効率化を目的とした,軸流圧縮機の高効率・高圧力化が強く求められており,高い圧力比を従来と同じ段数で達成するためには,翼列当たりの空力負荷を増加させる必要があります.その結果,先進的な高効率ガスタービンでは,圧縮機内部の動翼の回転周速度が超音速となるケースが多く,圧縮機内部には亜音速流れ(音速以下の流れ)と超音速流れが混在した遷音速流れ場が形成されます.このような圧縮機は遷音速軸流圧縮機と呼ばれ,先進的な高効率ガスタービンに不可欠な構成要素となっています.
遷音速流れ場では,衝撃波と呼ばれる流れの不連続性が現れ,流れの速度,圧力,密度,温度等のすべてが急激に変化します.これは,流れの慣性効果の非線形性に起因する現象であり,その厚さは気体分子の平均自由行程の数倍程度といわれています.遷音速圧縮機の内部では,衝撃波が発生するだけでなく,衝撃波と翼端漏れ渦および翼面境界層との干渉も併せて発生するため,その設計段階において,衝撃波の発生位置や種々の流動現象との干渉を正確に予測する必要があります.
また,圧縮機の高負荷・高圧力比化には,旋回失速(Rotating Stall)と呼ばれる異常流動現象を生じやすくさせるという側面もあるため,圧縮機の安定作動の観点から,設計時において旋回失速を予測する技術や旋回失速を事前に予測し回避する技術が求められています.
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| 解析例:遷音速軸流圧縮機動翼列における渦流れ構造 | 解析例:遷音速多段軸流圧縮機静翼列の非定常流れ場 |
旋回失速現象とは
多段軸流圧縮機において,安全な運転範囲を制限するものの一つに旋回失速という異常流動現象があります.これは,局所的な失速域(失速セル)が動翼の回転速度の30~70% で翼間を伝播する現象であり,圧縮仕事や効率の急激な低下を引き起こすばかりでなく,翼に振動応力が加わることで翼の疲労破壊を引き起こす恐れもあります.ここでは,その旋回失速現象について説明します.
先ほど述べた様に圧縮機の翼と航空機の翼の形状は非常によく似ています.これは両者が同じ原理で使用されているためです.したがって圧縮機の翼にも航空機の翼と同様な現象が生じます.その現象の1つとして失速(Stall)が挙げられます.図a-1の様に動翼の前後の先端を結んだ直線(翼弦:Chord)と,流れの方向のなす角を迎え角(Attack-Angle)と呼ぶのですが,この迎え角が小さい時は図a-2の様に流れは翼によって流れるのですが,迎え角が大きくなると,流れは図a-3の様に翼から剥がれてしまいます(剥離).この現象を失速と呼んでいます.
圧縮機の場合では流量を減少させていく事で迎え角が増大する現象が起き,同様の失速が生じます.この失速領域は図bの様に翼列に局所的に現われます.この様な局所的な失速領域を失速セル(Stall-Cell)と呼びます.失速セルは特定の場所にとどまらずに翼列の回転と逆方向に移動していき,結果として動翼回転数の30~70%の速度で回転します.この現象を旋回失速(Rotating-Stall)と呼びます.
この旋回失速現象によって,
(1) 圧縮仕事や効率の急激な低下
(2) 翼に繰返し荷重がかかることによる,翼の疲労破壊
(3) 顕著な離散周波数騒音の発生
を引き起こす恐れがあります.
そのため,旋回失速の初生および遷移過程のメカニズムを解明することは,旋回失速の抑制による運転範囲の拡大やその事前検知などに役立つという点でたいへん大きな意味をもちます.
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| Fig.a-1 | Fig.a-2 | Fig.a-3 | Fig.b |
研究成果:EFD/CFDハイブリッド流動解析による旋回失速現象の解明
先述の通り,圧縮機内における複雑な三次元渦流れ場をEFD解析のみで完全に計測することは困難です.一方で,CFD解析も万能ではなく,EFD解析結果に照らし合わせた検証を行わなければ,完全な信頼性はありません.そのため,本研究では,EFDを補完し,現象をよく理解することを目的としてCFDを活用する,EFD/CFDハイブリッド流動解析を行うことで,旋回失速初生現象の解明に取り組みました.
・EFD解析
失速セルの挙動を実験的に捉えるには、動翼列(回転要素)内の流動を、要素とともに回転する座標系から計測すると共に、動翼に対する失速セルの位相についても考慮する必要があります.しかしこれを満足する計測は容易ではなく、過去行われた他の実験的研究においても、旋回失速の初生及び成長のような過渡的変化における内部流動を詳細に述べたものはなく、その詳細については不明でした.
これに対し私たちの研究グループでは、周期的多点抽出法により動翼に同期したデータを収集し、そこから得られたデータに対し,失速セルに同期したデータをアンサンブル平均する「二重位相固定法(Double Phase Locked Measurement)」を開発しました.これにより,旋回失速時の渦流れ場における内部流動測定を行うことを可能としました.
また近年では,ケーシング壁面から計測した壁面圧力について時空間内挿を行うことで、ケーシング壁面の矩形領域における同一時間のデータを取り出す「同時面計測法(Synchronous Field Measurement)」を新たに開発しました.この計測法により、旋回失速の初生及び成長過程における過渡的状態の流れ場を可視化して捉えることに成功しました(アニメーション参照).
さらに、旋回失速の初生に後置静翼の流れ場構造が大きく関係していることが、一昨年のCFDによる研究で明らかとなったため、静翼まわりの流れ場構造を実験的に把握するべく、昨年度には熱線による周期的多点抽出法を応用した新しい計測法を開発しました.その方法は、まず熱線の半径位置と熱線-静翼の相対位置を様々に変化させて、周期的多点抽出法により大量のデータを取得します.そして、データの後処理の段階で、動静翼の相対位置関係が等しいものをピックアップし全データを再構成することで、動翼の回転位相ごとに静翼の流れ場の情報を集めることができます.最後にこの情報をコンターマップにして可視化します.また、すべての回転位相に対してコンターマップを作成し、つなぎ合わせることでムービーにすることもできます.
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| 同時面計測法による壁面静圧分布測定結果 |
・CFD解析
EFD計測(実験)から得られる情報量は物理的に限られており、翼間における複雑な非定常三次元渦流れ構造の詳細まで解明することは、ほぼ不可能です.そのため本研究では、EFD解析で使用する供試軸流圧縮機動翼列を対象として、翼1ピッチにつき約150万点の計算格子に対して,スーパーコンピュータを用いた大規模な非定常RANS(Reynolds-Averaged Navier-Stokes)計算によるCFD解析を行いました.
この結果,EFD計測結果との相互検証によって、EFD/CFDのそれぞれの解析結果の妥当性を確認すると共に、EFD計測のみでは解析不可能な翼間流路内の渦構造を明らかとしました.(下アニメーション参照)
また近年では,ケーシング壁面から計測した壁面圧力について時空間内挿を行うことで、ケーシング壁面の矩形領域における同一時間のデータを取り出す「同時面計測法(Synchronous Field Measurement)」を新たに開発しました.この計測法により、旋回失速の初生及び成長過程における過渡的状態の流れ場を可視化して捉えることに成功しました(アニメーション参照).
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| 旋回失速セルの渦構造 | 旋回失速時の渦構造および翼面上限界流線 |
・動翼列を起点とした旋回失速セルのフローモデル
以上のEFD/CFDハイブリッド流動解析結果から,旋回失速セルは翼負圧面から上流ケーシング面上に及ぶ竜巻状の剥離渦構造を有している(CFD結果:左アニメーション参照)ことが分かり,旋回失速セルについて下図に示すようなフローモデルが示されました.すなわち,この剥離渦が翼流路で引き伸ばされ,これが隣接翼に干渉することによって隣接翼に前縁剥離を引き起こし,新たな剥離渦の発生を生じます(CFD結果:下アニメーション参照).これにより,剥離渦は連続的に翼間を次々と伝播する失速セルとして翼ピッチ間を旋回することが明らかとなりました.
旋回失速に関して,以上のようなEFD/CFD双方からの詳細な解析結果は世界的にも例がなく、本研究は国際的な先駆性を有していると言えます.
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| 旋回失速セルのフローモデル |
研究成果:多段軸流圧縮機における旋回失速の初生メカニズム
圧縮機における旋回失速初生は,多くの企業や研究機関から高い関心が寄せられており,これまでに様々な研究が行われてきましたが,その多くは単段あるいは低速圧縮機を対象としたものであるため,多段軸流圧縮機の実機を対象とした旋回失速の初生メカニズムについては未だ不明な点が多く存在します.そのため,本研究では,産業用ガスタービンに用いられる14段遷音速軸流圧縮機のうち,前方7段の圧縮機全周を対象とした大規模DES(Detached Eddy Simulation)解析をスーパーコンピュータ「京」を用いて行いました.
解析結果に対して知的可視化処理を施すことにより,多段軸流圧縮機において,動翼先端での前縁剥離ではなく,静翼ハブ側におけるコーナー剥離に起因する失速初生が起こり得ることが明らかとなりました.
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| 多段軸流圧縮機静翼列の旋回失速初生における渦流れ構造 | 静翼列のコーナー剥離を起点とした旋回失速のフローモデル |
研究成果:遷音速翼列内の衝撃波を伴う三次元乱流現象
一般的なCFD解析は,時間平均化(レイノルズ平均化)された流体の運動方程式である,RANS方程式を解くことで行われますが,このRANS計算によるCFD解析では,乱流の効果をすべてモデル化して考慮するため,解析結果は使用する乱流モデルにより左右されてしまいます.このようなモデル化の影響を低減し,より高精度な解析を実現する手法としてLES(Large Eddy Simulation)解析があります.LES解析では,格子スケールよりも小さな乱流渦だけがモデル化され,格子スケールよりも大きな乱流渦は直接計算されるため,格子スケールを十分に小さくすれば,モデル依存性の低い高精度な解析を行うことが可能となります.
本研究では,遷音速圧縮機動翼の翼1ピッチに対して,13億点の計算格子を使用したLES解析を行うことで,圧縮機内部の非定常三次元乱流場を高精度に予測することに成功しました.
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| 遷音速軸流圧縮機動翼列における非定常乱流場 |



